キヤノン株式会社の企業研究(2018年度)
キヤノン株式会社(読み方はキャノン)の企業研究です。企業の理解を深めるために一連の情報をHPリンクとともにまとめてあります。この記事では投資家向け資料の連結決算概要から各セグメントの情報や考察を行いました。どちらかというと技術系の学生向けになっていると思いますが、事務系の学生にも役立つ情報をまとめてあると思います。
では、よろしくお願いします。
代表取締役
氏名
御手洗 冨士夫
経歴
[1],[2]引用
4月 キヤノンカメラ株式会社入社
(昭和44年3月キヤノン株式会社と改称)
1966年 5月 キヤノンU.S.A.,Inc.へ出向
1975年 3月 〃 副社長(カメラ担当)
1977年 3月 〃 執行副社長
1979年 1月 〃 社長
1981年 3月 取締役 キヤノンU.S.A.,Inc.社長
1985年 3月 常務取締役 キヤノンU.S.A.,Inc.社長
1989年 1月 常務取締役 本社事務部門担当
1989年 3月 代表取締役専務
1993年 3月 代表取締役副社長
1995年 9月 代表取締役社長(6代目)
2010年 日本経済団体連合会会長を退任 名誉会長
2016年 キヤノン会長に専念
代表メッセージ
[3]変化は進歩、変身は前進」
新たなる成長に向けて、戦略的大転換を加速します。
企業理念
[4] キヤノンの企業理念は、『共生』です。私たちは、この理念のもと、文化、習慣、言語、民族などの違いを問わず、すべての人類が末永く共に生き、共に働き、幸せに暮らしていける社会をめざします。
*一部抜粋全文はHPを参照ください。
設立年・資本金・株式公開・事業拠点
設立年
1987年8月10日
資本金
174,762百万円
株式公開
1,333,763,464株
事業拠点
[5]キヤノンの事業拠点は場所及び事業内容がすべて書かれている。以下の通り。
本社(東京都大田区):研究開発部門、本社管理部門、事業本部ほか
矢向事業所(神奈川県川崎市):インクジェットプリンター、大判インクジェットプリンター、インクジェット化成品の開発
川崎事業所(神奈川県川崎市):研究開発部門、生産技術部門、調達総括部門、製品事業部門ほか
玉川事業所(神奈川県川崎市):品質技術の開発
小杉事業所(神奈川県川崎市):医療機器の開発、人材開発研修(技術研修を除く)
富士据野リサーチパーク(静岡県据野市):電子写真技術などの研究開発
宇都宮事業所(栃木県宇都宮市)
宇都宮工場:EF/RFレンズ、放送用レンズ、ビデオ用レンズ、その他の光学部品の生産
宇都宮光学機器事業所:半導体露光装置、FPD露光装置の開発、生産、サービス
光学技術研究所:光学関連技術の研究開発
取手事業所(茨城県取手市):映像事務機、化成品の生産、電子写真技術などの研究開発、量産試作、量産支援
阿見事業所(茨城県稲城郡阿見町):FPR露光装置ユニットの生産
Canon Global Management Institute(東京都目黒区):経営幹部育成のための研修
大分ものづくり人材育成センター(大分県大分市):生産部門の実務技術、技能育成のための研修
詳しい事業内容
オフィスビジネスユニット
オフィス向け複合機、レーザー複合機、レーザープリンター、デジタル連帳プリンター、デジタルカットシートプリンター、ワイドフォーマットプリンター、ドキュメントソリューション
イメージシステムビジネスユニット
レンズ交換式デジタルカメラ、コンパクトディジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルシネマカメラ、交換レンズ、コンパクトフォトプリンター、インクジェットプリンター、大判インクジェットプリンター、業務用フォトプリンター、イメージスキャナー、マルチメディアプロジェクター、放送機器、電卓
メディカルシステムビジネスユニット
デジタルラジオグラフィック、X線診断装置、CT装置、MRI装置、超音波診断装置、検体検査装置、眼科機器
産業機器その他ビジネスユニット
半導体露光装置、FPD露光装置、真空薄膜形成装置、有機ELディスプレイ製造装置、ダイボンダー、マイクロモーター、ネットワークカメラ、ハンディターミナル、ドキュメントスキャナー
業績
2017年度(2018年3月期)
売上高
(単位:百万円) | ||||
---|---|---|---|---|
売上高(2017年度) | 売上高(2018年度) | 構成比(%) | 前年比(%) | |
連結売上高 | 4,080,015 | 3,951,937 | - | 96.9 |
セグメント別 | - | - | - | - |
オフィス | 1,802,542 | 1,804,002 | 45.6 | 100.1 |
イメージングシステム | 1,135,584 | 1,007,365 | 25.5 | 88.7 |
メディカルシステム | 434,985 | 437,305 | 11.1 | 100.5 |
産業機器その他 | 706,904 | 703,265 | 17.8 | 99.5 |
消去 | △ 89,992 | △ 106,318 | △ 2.7 | 118.1 |
営業利益率
(単位:百万円) | ||||
---|---|---|---|---|
営業利益(2017年度) | 営業利益(2018年度) | 利益率(%) | 前年比(%) | |
営業利益 | 321,605 | 342,952 | 8.7 | 106.6 |
セグメント別 | - | - | - | - |
オフィス | 189,261 | 220,804 | 12.2 | 116.7 |
イメージングシステム | 173,525 | 116,955 | 11.6 | 67.4 |
メディカルシステム | 21,941 | 28,839 | 6.6 | 131.4 |
産業機器その他 | 40,728 | 65,546 | 9.3 | 160.9 |
消去 | △ 103,850 | △ 89,192 | △ 12.7 | - |
営業業績の分析
[5]P.2引用
“2018 年 12 月期の世界経済を見ますと、米国の経済は、良好な雇用環境や企業収益の改善など を背景に着実な回復を続けました。欧州の経済は、内需は堅調に推移したものの、輸出の伸び悩 みにより成長率は鈍化しました。中国の経済は、個人消費の落ち込みや設備投資の停滞により減速し、その他の新興国についても現地通貨の下落などを受けて景況感が悪化しました。わが国の 経済は、良好な雇用環境を背景に緩やかな回復基調で推移しました。世界経済全体では、総じて 緩やかな回復がみられたものの、年後半は貿易摩擦の影響などを受けて成長のペースが弱まりました。”
向先地域別売上高
[5]P.8引用
向先地域別売上は、国内外比がおおよそ1:3で、海外売上の内訳は北米、欧州、アジア・オセアニアで33 %(全体の25 %)ずつとなっている。
成長性
経済的動向
[5]P.2引用
“次期の世界経済は、米国の経済は、個人消費は堅調に推移するものの、税制改革の効果が薄れることもあり成長率は鈍化する見通しです。欧州経済は、ドイツでは外需が低調に推移し、英国のEU離脱交渉に対する先行き不透明感も継続する見通しです。中国は金融・財政政策による安定化を図るものの、貿易摩擦の影響を受けて景気が減速し、その影響を受けて東南アジアなどの新興国経済も弱含みで推移する見通しです。わが国の経済は、設備投資が増加基調で推移するものの、外需については足踏み状態が続く見通しです。世界経済全体では昨年後半からの減速傾向が継続し、貿易摩擦の激化などにより景気が更に下振れする懸念が高まっています。”
研究費割合
有価証券報告書[7]、[8]より、2017年度330,053百万円(売上高の8.1 %)、2018年度315,842百万円(売上高の8.0 %)となっている。大手一部上場の平均研究費が売上高の5 %と比較すると、非常に高い割合であることが分かる。
個人的考察
成長性について
成長性については、事業内容の多くが衰退産業であること、米国特許取得件数が世界3位かつ国内企業1位であること、そして今後の成長分野についての3つを順に考察していく。
事業内容の多くが衰退産業であること
まず、売り上げの45 %をオフィスビジネスユニットが占め、30 %をイメージングシステムビジネスユニットが占めている。プリンターがイメージングビジネスユニットに計上されていて、複合機がオフィスビジネスユニットに計上されていることが少し不明であるが、この記事では、主にカメラ市場とプリンター市場の縮小について考察する。
カメラ市場について
参考文献[9]に2000年代からの各種カメラの出荷台数が書かれている。これによると、2010年に全カメラの総出荷台数が1億2,000万台を越えたのをピークに急激に減速している。理由は単純でスマートフォンの普及に伴って需要が減速している。そして、[10]によると、2019年の見通しは1,690万台まで減少している。たった10年で約16 %にまで出荷量が減少している。ミラーレスカメラなど一部出荷台数に大きな変化がないものも存在するが、今後も出荷台数は減少していくであろう。
オフィスビジネスユニットについて
参考文献[11]より引用する。
“2017年度のプリンタ(出力機器)の世界出荷台数は前年度比98.0%の9,845万8,000台、同出荷金額は同96.4%の5兆7,426億円(いずれもメーカー出荷ベース)となった。2017年度は前年度に引き続き、家庭での出力機会の減少やオフィスにおけるプリンタの最適配置、あるいはハイスペックな機器導入による全体的な設置台数の減少などにより、市場は微減となった。加えて、IT関連では技術革新への対応や、人手不足解消のための省力化に対する投資が優先され、プリンタへの投資には積極的なマインドが働かず、プリンタメーカーが期待するほどには機器のリプレイスも進まなかった。”
カメラ市場と比較すると、微減事業ではあるが、出荷台数は年々着実に減少傾向にある。先進国ではペーパーレス化が進み新興国ではまだ需要があるものの後々は先進国同様にペーパーレス化が進むとの見方が強い。
米国特許取得件数が世界3位かつ国内企業1位
これはホームページにも大きく書かれているので、企業も相当強く言いたいことなのでしょう。[12]より、キヤノンは米国特許件数33年連続5位以内獲得し、14年連続日系企業1位をキープしているそうです。研究費の多さと、特許件数からいかに研究開発に注力しているかが分かります。個人的にはかなり大きなポイントです。なぜなら大学教育だけでなく、研究開発や設備投資に韓国や中国と比較して日系企業は消極的であり、それゆえにシェアを落としている企業が存在しているためです。攻めの経営といいますか、そういった印象を受けます。
今後の成長分野について
[13]既に買収は終了しているが、東芝から買収した医療機器分野を新たな成長の軸として拡大している。その他にも商業用印刷や、ネットワークカメラなど将来有望な分野へ展開をしていく。
また、原価率の低減(現在(2018年)およそ50 %から45 %)のため、生産工場のロボット化、自動化を進めていく。
参考文献
[1] https://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2003/mitarai.html
[4] 企業理念・キヤノンスピリット | キヤノングローバル
[6] https://global.canon/ja/ir/results/2018/rslt2018j.pdf
[7] https://global.canon/ja/ir/yuuhou/canon2018.pdf
[8] https://global.canon/ja/ir/yuuhou/canon2017.pdf
[9] デジタルカメラ2000年代の出荷台数・出荷金額・平均単価の推移 | Amazing Graph|アメイジンググラフ
[10] 2019年デジタルカメラ出荷見通しが発表 1,000万台規模を維持 - デジカメ Watch
[11] プリンタ世界市場に関する調査を実施(2018年) | ニュース・トピックス | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所
[12] 米国特許取得件数、33年連続5位以内を獲得 14年連続日本企業で第1位 | キヤノングローバル
[13] キヤノンメディカルに社名変更、20年売上高6000億円弱に :日本経済新聞