株式会社ニコンの企業研究(2019年3月)
株式会社ニコンの企業研究です。企業の理解を深めるために一連の情報をHPリンクとともにまとめてあります。この記事では投資家向け資料の連結決算概要から各セグメントの情報や考察を行いました。どちらかというと技術系の学生向けになっていると思いますが、事務系の学生にも役立つ情報をまとめてあると思います。
では、よろしくお願いします。
代表取締役
氏名
牛田一雄
経歴
[1]
1975年 東京大学工学部応用物理学科卒業
1975年 入社
2003年 執行役員、精機カンパニー開発本部長
2005年 常務取締役兼上席執行役員、精機カンパニープレジデント
2007年 取締役兼専務執行役員、精機カンパニープレジデント
2009年 取締役兼専務執行役員、知的財産本部担当役員、精機カンパニープレジデント
2013年 代表取締役兼副社長執行役員、知的財産本部担当役員、精機カンパニープレジデント、経営企画本部副担当役員
2014年 代表取締役兼社長執行役員、メディカル事業推進本部管掌、新事業開発本部管掌
2015年 代表取締役兼社長執行役員、経営戦略本部管掌、メディカル事業推進本部管掌、新事業開発本部管掌
2017年 代表取締役兼社長執行役員、新事業開発本部担当、光学本部担当、研究開発本部担当
2019年 代表取締役会長
企業理念
[2]「信頼と創造」
企業ビジョン
Unlock the future with the power of light
設立年・資本金・株式公開・事業拠点
[3][4]
設立年
1917年(大正6年)7月25日
資本金
65,476 百万円(2019年3月末現在)
株式公開
400,878,921株
事業拠点
大井製作所(東京都品川区)
横浜製作所(神奈川県横浜市)
相模原製作所(神奈川県相模原市)
熊谷製作所(埼玉県熊谷市)
横須賀製作所(神奈川県横須賀市)
詳しい事業内容
[5]
映像事業
デジタル一眼レフカメラ、コンパクトデジタルカメラ、オンライン写真共有サービス「NIKON IMAGE SPACE」、カメラとスマートフォンを常時接続するアプリ「SnapBridge」、双眼鏡、フィールドスコープ、ルーペ、ゴルフ用レーザー距離器
精機事業
半導体露光装置、フラットパネルディスプレイ(FPD)露光装置
ヘルスケア事業
超解像顕微鏡、細胞培養観察装置、超広角走査型レーザー
産業機器事業
X線/CT検査システム、大規模空間非接触測定器、多関節アーム型三次元測定機、CNC画像測定システム
業績
2017年度(2018年3月期)
売上高
(単位:百万円) | ||||
---|---|---|---|---|
売上高(2017年度) | 売上高(2018年度) | 構成比(%) | 前年比(%) | |
連結売上高 | 717,078 | 708,660 | - | 98.8 |
セグメント別 | - | - | - | - |
映像事業 | 361,542 | 297,383 | 42.0 | 82.3 |
精機事業 | 226,581 | 274,938 | 38.8 | 121.3 |
ヘルスケア事業 | 57,085 | 65,638 | 9.3 | 115.0 |
産業機器事業 | 131,270 | 133,786 | 18.9 | 101.9 |
調整 | △ 59,400 | △ 63,085 | △ 8.9 | 106.2 |
営業利益率
(単位:百万円) | ||||
---|---|---|---|---|
営業利益(2017年度) | 営業利益(2018年度) | 利益率(%) | 前年比(%) | |
営業利益 | 56,236 | 82,653 | 11.7 | 147.0 |
セグメント別 | - | - | - | - |
映像事業 | 30,222 | 22,069 | 7.4 | 73.0 |
精機事業 | 53,393 | 81,730 | 29.7 | 153.1 |
ヘルスケア事業 | △ 3,263 | △ 1,937 | △ 3.0 | 59.4 |
産業機器事業 | 5,026 | 6,937 | 5.2 | 138.0 |
調整 | △ 29,140 | △ 26,146 | △ 19.5 | - |
売上高に関しては主要事業が縮小市場であるため、2013年度をピークに減少傾向にある。映像事業の売上減少が反映されている形になっている。
映像事業は急激に売り上げが減少している。これはスマートフォンの拡大によってカメラの出荷台数が2010年をピークに減少しているためであると考えられる。
精密機器事業は現在伸びている事業。2010年度の赤字があまりにも大きいため、わかりにくいが、2018年度は営業利益率が30 %となっている。ただし、これは訴訟和解金の150億円が加算されている一時的な利益である。それを差し引くとおよそ25 %。
半導体露光装置については後程解説。
ヘルスケア事業の2014年度以前のデータはその他にまとめて記載されていたため、2015年度以降のみグラフ化した。この事業は、成長事業として力を入れている事業である。営業利益は赤字であるが、今後に期待したい。
構造改革などにより営業利益は黒字化したものの主要事業と比較すると規模はまだ小さい。[8]中長期計画にも言及されていないため、不明だが、ヘルスケア事業同様成長産業の1つである。
営業業績の分析
[4]“当連結会計年度の経済情勢は、我が国経済は個人消費の持ち直しや設備投資の増加等が見られ、緩やかな景気回復が続きました。米国経済は個人消費が一時的に減速したものの底堅さを維持し、欧州は緩やかな回復基調にありました。また、中国は緩やかな減速傾向が見られました。事業別では、映像事業においては、レンズ交換式デジタルカメラ市場及びコンパクトデジタルカメラ市場は縮小傾向が続きました。精機事業においては、FPD関連分野の設備投資は堅調に推移しました。また、半導体関連分野の設備投資は堅調に推移したものの、期後半は減速局面に入りました。ヘルスケア事業においては、バイオサイエンス分野及び眼科診断分野ともに海外を中心に市況が堅調に推移しました。”
セグメント別概要
以下全文引用[4]
映像事業
市場が縮小するなか、レンズ交換式デジタルカメラ及びコンパクトデジタルカメラともに販売台数は減少しました。
これらの結果、当事業の売上収益は2,961億69百万円、前期比17.9%減、営業利益は220億69百万円、前期比27.0 %減となりました。
精機事業
FPD露光装置分野では、中小型パネル用装置の販売台数は減少しましたが、大型パネル用装置が販売台数を伸ばし、大幅な増収増益となりました。半導体露光装置分野では、一部装置の販売が次期に繰り延べになる等の影響はありましたが、ArF液浸スキャナーやArFスキャナーの販売が堅調に推移したほか、構造改革による効率化が進み、二期連続の黒字を達成しました。
これらの結果、当事業の売上収益は2,745億40百万円、前期比21.3%増となりました。
また、営業利益はFPD露光 装置分野の増益に加え、半導体露光装置分野における特許訴訟の和解金等を計上した影響により、817億30百万円、 前期比53.1%増と、事業全体として大幅な増益となりました。
ヘルスケア事業
バイオサイエンス分野では生物顕微鏡の販売が海外を中心に増加するとともに、眼科診断分野でも超広角走査型 レーザー検眼鏡の販売が堅調に推移し、いずれの分野も過去最高の売上げを達成しました。事業全体としては、眼科診断分野や再生医療関連への戦略投資を計画通り実行した一方、固定費の削減等により 収益性が改善しました。
これらの結果、当事業の売上収益は654億34百万円、前期比15.2%増となり、営業損失は19億37百万円(前期は 32億63百万円の営業損失)となりました。
産業機器・その他
産業機器事業では、構造改革施策の一環であるCMM(Coordinate Measuring Machines:接触式三次元測定機)事業譲渡の影響などにより減収となりましたが、収益性が改善され、増益となりました。
カスタムプロダクツ事業では、固体レーザーと特注機器が増収となりました。
ガラス事業では、FPDフォトマスク基板や光学素材の拡販を進め、増収となりました。
この結果、これらの事業の売上収益は725億18百万円、前期比1.0%減となり、営業利益は69億37百万円、前期比 38.0%増となりました。
向先地域別売上高
[4]P23引用
地域別売り上げは上記の表のようになっている。売り上げ率は日本が13 %、米国が24 %、欧州が17 %、中国が28 %、その他が18 %となっている。
同業であるキヤノン(日本、欧州、欧米、アジアで約25 %ずつ)と比較すると、日本および欧州の売り上げが低い分アジアの売り上げが高くなっている。
成長性
経済的動向
[4]p5引用
今後の見通し
“当社グループの事業分野に関しては、映像事業では、レンズ交換式デジタルカメラ市場はフルサイズのカテゴリーでは堅調に推移することが見込まれるものの、全体としては縮小傾向が続き、コンパクトデジタルカメラ市場も縮小が続くことが予想されます。
精機事業では、FPD関連分野は中小型パネル用の設備投資は一段落するものの、大型パネル用の設備投資は堅調に推移するものと見込まれます。半導体関連分野は半導体市場の減速を受け、設備投資は一服するものと見込まれます。
ヘルスケア事業では、バイオサイエンス分野では、市況が引き続き堅調に推移することが 予想されます。
眼科診断分野では、網膜画像診断機器市場が海外を中心に引き続き堅調に推移するものと見込まれます。”
研究費割合
決算説明会資料[6]p27より、2017年度60,700百万円(売上高の8.5 %)、2018年度64,000百万円(売上高の9.0 %)となっている。
個人的考察
成長性について
成長性については中長期計画を参考にすると、材料加工事業に注力していくと明記されている。主な製品として3Dプリンター、レーザー加工機、三次元計測機など、ニコンが強みを持っている光を使った製作機器の展開を目指している。
また、ヘルスケア事業もメイン産業となるように長期的な投資と拡大を行うとなっている。
カメラ事業の大幅な縮小はほぼ避けられないであろうが、個人的に思うニコンの強みはやはり半導体露光装置ではないかと思う。理由は以下の2点である。
1.半導体露光装置の製作には大きな設備投資が必要で、新規産業の参入のハードルが高い
2.電気自動車、産業用機器とIoT化が進むにつれて半導体の需要も伸びていく成長市場である。
以上の2点から半導体産業に関しては非常に安定した成長産業であると考えている。
カメラ事業について
参考文献[9]に2000年代からの各種カメラの出荷台数が書かれている。これによると、2010年に全カメラの総出荷台数が1億2,000万台を越えたのをピークに急激に減速している。理由は単純でスマートフォンの普及に伴って需要が減速している。そして、[10]によると、2019年の見通しは1,690万台まで減少している。たった10年で約16 %にまで出荷量が減少している。ミラーレスカメラなど一部出荷台数に大きな変化がないものも存在するが、今後も出荷台数は減少していくであろう。
半導体露光装置
半導体露光装置のシェアはニコンがオランダのASML社を上回っていたが、2010年にはASML社が8割、ニコンが2割と大きく差が開いている。詳しくはリンクの参考文献を参照していただきたい。
簡単に要約すると、企業の成り立ちや体質、顧客層によるものであったそうである。まず、成り立ちや性質ついては、ASMLは1984年にPhilipsの一部とASMI社が合同で出資する合弁会社として設立され、ASMIが商社であったこともあり、調達力が優れている点が特徴であった。よって部品のすべてを外注し、ソフトウェアだけを自社で担当した。それに対し、ニコンの製品は光源以外を自社で生産していた。
また、顧客の内訳は(2005~10年)、ニコンはインテルが約半数近くを占め、次に東芝が2割ほど。それに対し、ASML社は韓国のサムスン電子が最も多く、SKハイニックス、TSMC続く状況であった。
ニコンのメイン顧客は複雑なデザインを構成するためにスペックの狭い製品を精密に作っており、それだけ個別の要求を満たすような製品を製作していた。
それに対してASMLは汎用的な製品を製作しているサムスン電子やSKハイニックスを生産しており、差別化よりも統一されたパフォーマンスが重要となった。
結果ASMLの顧客であるサムスンやSKハイニックスの拡大とともにASML社も拡大していった。
参考文献
[1] https://www.nikon.co.jp/corporate/profile/management/career/
[2] https://www.nikon.co.jp/corporate/philosophy/
[3] https://www.nikon.co.jp/corporate/profile/data/
[4]“2019年3月期決算短信”,
https://www.nikon.co.jp/ir/ir_library/result/pdf/2019/19_4qf_c_j.pdf
[5]“会社案内”
https://www.nikon.co.jp/corporate/profile/data/pdf/nikon2018j.pdf
[6] “決算説明会資料”
https://www.nikon.co.jp/ir/ir_library/result/pdf/2019/19_all.pdf
[7] “2018年アニュアルレポート”
https://www.nikon.co.jp/ir/ir_library/ar/pdf/2018/18nikonreport_j.pdf
[8] “中長期計画(2019年~2021年度)”
https://www.nikon.co.jp/ir/management/midtermbusiness/pdf/2019/0509j_all.pdf
[9]デジタルカメラ2000年代の出荷台数・出荷金額・平均単価の推移 | Amazing Graph|アメイジンググラフ
[10] 半導体露光機で日系メーカーはなぜASMLに敗れたのか (1/2) - MONOist(モノイスト)